テルミンは1920年にロシアの物理学者レフ・テルミンによって発明された世界最古の電子楽器です。
この楽器の最大の特徴は、楽器に直接触れずに演奏する点にあります。
手を触れずにどうやって演奏をするのでしょうか。ひと目でわかるように、テルミンには二本のアンテナが取り付けられています。
これは音程と音量を制御するためのもので、アンテナに手を近づけたり遠ざけたりして演奏するのです。
演奏の様子は初めて見るととても不思議ですが、もちろん魔法ではありません。
実際、その原理は非常に簡単な電磁気学に基づくものです。簡単に言うと、アンテナと手とがコンデンサーを形成し、その距離を変化させることによってコンデンサーの容量を変化させ、その変化を音程や音量の変化として取り出すのです。その音色は女声やチェロにたとえられます。
テルミンは音程・音量ともに連続的に変化させられるので、演奏者の技倆次第でビブラートやポルタメントを自由に制御できます。単音楽器としては、もっとも自由度の高い楽器のひとつと言えるでしょう。ただし、演奏者は自分の耳だけを頼りに音程をとっていかなくてはなりません。そのため、かつては演奏が難しく、習得にも時間がかかる楽器と思われていました。しかし、現代最高の名手リディア・カヴィナに師事した竹内正実氏(FOT創設者・名誉会員)によって体系的な演奏法が紹介されて状況は一変、メロディを追う程度の演奏技術ならむしろ比較的簡単に身につけられる楽器であることがわかってきました。
今ではいくつもの教室が開講されており、習う機会も多くなっています。
もちろん、聴き手を感動させる演奏レベルに達するには多くの練習を積まなくてはなりませんが、それはどんな楽器でも同様です。ただ、テルミンは演奏法が群を抜いてシンプルなだけに、たとえばちょっとした迷いが身体の揺れを生み、それがそのまま音に反映します。それだけに演奏しがいのある面白い楽器なのです。特に、名手の手によって完全にコントロールされた演奏は、電子楽器でありながら極めて人間的な暖かい音を生み出します。
過去の代表的な演奏家としては、歴史上最高の奏者と言われ、映画『テルミン』でもその演奏シーンを見ることができたクララ・ロックモア、『白い恐怖』や『地球が静止する日』など数々の映画音楽でテルミンを演奏したサミュエル・ホフマンなどが挙げられます。現代の演奏家としては上述のリディア・カヴィナやパメリア・カースティン、また国内では竹内正実、やの雪、rom-chiakiなどが精力的な演奏活動を行っています。さらにテルミン専業ではないものの、コーネリアス(小山田圭吾)、高野寛、巻上公一など、テルミンをさまざまな形で積極的に演奏に取り入れているアーティストも数多くいます。また、メロディを奏でるのではなく、効果音的な使い方でテルミンを取り入れた代表的なロックバンドとして、レッド・ツェッペリンの名を忘れることはできません。
日本は世界的に見てもテルミンの愛好家人口が多く、生演奏に触れる機会も頻繁にあります。フレンズ・オブ・テルミンのホームページではライブの情報を随時お伝えしています。また、「サロン」と名付けたフレンズ・オブ・テルミンの例会でも生演奏を聴くことができます。テルミン未体験のかたはぜひ一度、生演奏の場に足を運んでみてください。
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